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Dicteeのえらぶ100冊 #66

 クラフト・エヴィング商會「クラウド・コレクター[手帖版]」(ちくま文庫 2004)。「雲、売ります」という不思議な広告のイラストから始まるこの物語はクラフト・エヴィング商会の三代目店主が、祖父が残した手帖をもとに、そこに記された異世界「アゾット」を旅しながら、その世界の秘密を探っていくというものです。このファンタジックな設定もさることながら、ひとつひとつがユーモアに彩られた21の物語や、祖父の記した文章の部分が少しグレーがかったインクで印刷されている点など、本全体にとても温かみのある工夫が感じられます。物語というのはこういう作品のことをさしていうのではないかと、そういう気持ちにさせてくれる一冊ですね。ハードカバー版から一変して、文庫版では全編にとても不思議なイラストがちりばめられていて、それもまた楽しみどころのひとつかと思います。この本の姉妹版として「すぐそこの遠い場所」という本も発売されていて、こちらは物語の中に登場する「アゾット事典」を再現したような内容になっていますので、2冊を共に楽しむと更にアゾットの世界に入り込めるかもしれませんよ。


Dicteeのえらぶ100冊 #65

 CDがジャケ買いならば、本の場合は装丁買い?だろうか。そんな気持ちで手にした一冊が、角田光代「あしたはうんと遠くへいこう」(角川文庫 2005)です。表紙のこの写真は、有名写真日記サイト「ダカフェ日記」のモリユウジさんが日記に掲載していた写真で、それをみた編集者の方が使わせてほしいと連絡をとったのだそうです。学生の頃から見続けているサイトがこんな風にしてリアルの生活の中にも溶け出してくるなんて、自分のことのようにうれしい気分になりました。この本を手にとるきっかけが写真ならば、読み進めていくうちについつい目にとまったのが音楽だったのです。1頁目にスミスとエコー&ザ・バニーメンの名が登場し、次の頁にはニューオーダーが、そして4頁目には主人公が一番好きなアーティストとしてペイル・ファウンテンンズまでもが出てきます。彼女の音楽遍歴が伺える上にそれがまた自分と近いものだったりするので、初めて読んだ時ですら、写真と音楽による既視感で懐かしい気持ちを抱いてしまうほどでした。


Dicteeのえらぶ100冊 #64

 以前、まだ秋田でもJ-WAVEが聞くことが出来た頃にたまに耳にしていた番組が本になっていました。「タイム・フォー・ブランチ はなの東京散歩」(PARCO出版 2004) 僕の大好きなはなちゃんが僕が好きな“街”を散歩しながら紹介するという番組で、J-WAVEが聞けなくなって一番残念だったのが、この番組が聞けなくなってしまったことでした。この番組や本から気付かされることのひとつが、やはり街は歩くのが一番だということ。地方都市に住んでいると、どうしても車中心の生活になりがちですが、そんな車社会こそが「街」から特色や文化を奪い取る原因だと思うのですよね。駐車場完備の便利な大型郊外店には文化は宿りません。東京には歩いてみたくなる街がたくさん残っていてそんな街をはなちゃんと一緒に歩けたら最高だろうなぁという妄想にふけってしまうのでした(本のなかではハナレグミの永積タカシがはなちゃんとデーとしていて羨ましい限りです)。ちなみにこの番組、現在もまだ続いて放送中ですので、J-WAVEが聞ける地域の方は是非一度聞いてみてください。


Dicteeのえらぶ100冊 #63

 一目見た瞬間に「これ好きだ」と直感で分かってしまうものって今までも幾つかあったのですが、この瀧本幹也「SIGHTSEEING」(リトルモア 2007)も雑誌のひとつの紹介記事からそんな風にして出会った一冊でした。彼のライフワークとして撮り続けていたという観光地の、それも観光客を含んだ写真シリーズを一冊にまとめたもので、見なれたはずの観光地写真のちょっと捻った構図が非常に魅力的です。例えばこの表紙の写真も何気ないホテルのプールの写真かと思いきや、窓ガラスに映っているのはピラミッド、今やすっかり都市観光地と化してしまったエジプトの様子を表現しているかのようです。また、この写真集のもうひとつの魅力は色、それはもう原子的な部分へ立ち返った光と言い換えてしまっていいような、そんな色彩が素晴らしく僕好みなのです。実際に目に見えているはずの色は決まっている中で、それが最も美しく映し出される光の瞬間を捉えるという作業に何日も同じ場所で三脚を立て続けることもあるとのことで、まさに色の傑作集とも呼べる写真集ではないでしょうか。


Dicteeのえらぶ100冊 #62

 昔からCMは好きだったのだけれど、CMを作っている人の事を意識し始めたのは大学生協で初めて「広告批評」を買った頃からでした。小田桐昭×岡康道「CM」(宣伝会議 2005)は岡康道と小田桐昭、二人のトップクリエイターの対談を中心に互いのキャリアやかつての仕事などを振り返りながらCM業界について熱い想いをぶつけています。CM業界に限らずとも、何かを作り出すということについて高い意識を持つということが大切なのだと考えさせられる一冊です。そんな刺激を受ける一方で、自分の所属する集団の現状があまりにも・・・なのに悲しくなってしまう所もあったり。もちろん、自分だってどれだけのものなんだって言われたら、大したものじゃないんですけどね。でも、小田桐さんも岡さんもやり方は違えど、CMに対する熱意とクリエイティブな高い意識の持ち方には共通のものがあるもので、レベルの違いはあれど、やはり考えて考えて面白いものを作ろうとする意識だけでも持ち続けていきたいものだと再確認します。


Dicteeのえらぶ100冊 #61

 働きはじめて思ったことの一つに仕事をすることと暮らしていくことには大きな差がないのではないだろうかということでした。後藤繁雄「僕たちは編集しながら生きている」(マーブルブックス 2004)は編集という技術はもはや編集者のみに必要なものではなく、暮らすという分野でも活かすことが出来るものだと語っています。自分に必要な情報を集めて、それを自分の中で消化してアウトプットする「生活編集」という意識を持っているだけで仕事(編集に限らず)にしても、生活にしても、ほかの人とは少し違った面白いものを産み出していけるのではないでしょうか。ついつい怠けた生活に陥ってしまいがちな僕にとっては、この本はとても良い刺激になりました。Dictee自体にも言えることなのですが、暮らしの中で闇雲に情報を集めるのはあまり良いことではないですよね。意識的にその情報をどう消化するのか、どう出力するのか、その大切さを気付かせてくれた一冊でした。あと中身とは関係ないけど、装丁の色具合が非常に僕好みです。



Dicteeのえらぶ100冊

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